寺への参道を歩く女がいた。山門には男がひとり。色は覇王丸に気が
つくと、黙って胸の赤子を見せる。覇王丸は赤子に一目くれると、静
かにうなずいた。
石段を和狆が降りてくる。色は黙って赤子を坊主に渡すと、背を向け
歩きはじめた。和狆は問う。
「何故、子を此処へ?」
女は立ち止まり、答える。
「その子が願うから・・・」
「赤子が何を申す?」
背を震わせ呟く色。
「・・心のない女・・・・こんな女の元にいるのが不憫だと御思いなら、
どうか・・・」
あまりに悲痛な言葉に、赤子に目を落とす和狆。
「あ・・・赤い瞳とは!!!」
再び目を上げると、女の姿はそこになく、木枯らしだけが吹いていた。
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