鋭い太刀が、その者を両断した。
幾度となく敵を斬ってきた男の眼は、今回も迷いがない。
自分の道を進む為、大地を割り、大海を切り裂き歩む男。
手に『強者を倒した』感覚が伝わってきた。
色と呼ばれる女は気を失っていたが、自分を捕縛していた力から解放
されると、やがて無言のまま立ち去っていった。
半陰半陽の男と女。
二人の間に言葉が交わされることはなかった。
だが、お互い分かっていた。
自分が自分であること、そして現実に生きている意味を。
緩やかに赤く染まり行く東の空が、再び平和が戻った事を実感させた。
しばらく朝日を見ていた覇王丸は、ふと気配に気付いた。
「赤ん坊・・・・・・か?」
天下無双の剣豪も、赤子だけには勝てない。
片手でひょいと拾い上げると、そっと手ぬぐいをかぶせてやる。
何故こんなところに赤子が、などとは思わなかった。
だってそれは、今自分がこの地に立っている理由と同じくらいつまら
ないものだと思ったからだ。
ただ、やれやれもっと早くに気付くべきだった。そうすればあの女に
任せたのに、と思い苦笑する。
「仕方がない、近くの街まで送ってやるが・・・」
覇王丸は風呂敷に赤子を顔だけ出してくるむと、刀の鞘にぶら下げ、
それを背に担いだ。
「酒飲みになるぜ、お前」
そう言って朝日を仰ぐと、男は再び歩き出した。
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