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1. |
イギリスはウェールズ地方。
アパースワースにほど近い海沿いの断崖に、人気もなく廃虚と見まごうようなネメトン修道院がある。 |
2. |
その敷地の中には、9世紀頃に建てられたと言われるロマネスク様式を色濃く残した修道僧の宿坊をめ、13世紀頃に建てられた飛び梁も美しいゴシックの大聖堂、会堂をかねた図書館、鐘つき堂、炊事場、処刑台に使われた東屋、近代になって建てられた宿舎などが、全体を囲む壁と一体化して並んでいる。 |
3. |
16世紀に修道会を禁ずる制令が発布されるのを待たずして、寂れ、
廃墟と化したこの場所は、17世紀に入って政治的な犯罪者 や虜囚などを 閉じこめたり処刑したりする目的に使用された。
今でもどこかに地下牢が隠されているといわれている。 |
4. |
近代になって訪れる者もいなくなり、荒れるに任せていたのを、
ある資産家が物好きにも買い取って移り住んだが、程なくして彼は姿を消し、
あとには様々な憶測と噂だけが残った。 |
5. |
ある者は財宝が隠されたまま埋もれているといい、またある者は悪魔が彷徨っているといい。
再び廃墟と化したこの修道院を訪れるのは、人目を避ける犯罪者や一攫千金目当ての食い詰めた者だけだった。 |
6. |
物語は1898年10月31日月曜日、このネメトン修道院を一人の少女が訪れるところから始まる。 |