牡丹雪が、立ちつくす八角の肩に降りかかる。
闇の人形師を封じ込めた「職人」は、独りぼっちでその雪の重みを受
け止めていた。
八角が顔を上げると、白く霞む視界に遠くの山々が映ってきた。
「・・・終わったのだ・・・。」
山に帰ろう、と唐突に八角は思った。
神槍は二度と取るまい。
神槍を持っていたがために八角は、かけがえのない者を失ってしまっ
たのだ。
せめて、妻と子の魂の宿るあの家に戻りたい。
閉ざされた雪の中に眠る二つの魂は、己を暖かく迎えてくれる。
なぜかそんな気がしていた。
「・・・今・・・戻るぞ・・・。」
八角は不思議と澄んだ眼で、白くけぶる遠くの山々を見つめていた。
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